サクラネコロガル

「東方の物置場」SSコーナーへ
サクラネコロガル

 春のうららかさにも酔えずに橋の上で一人、流れる水を目で追っていた。
 ―― 一人、のはずだった。
「おう、パルスィ! 今日も私への思いにふけって睦言でも考えてくれているのかい?」
 大きな声を上げてずかずかと近寄ってくるのは星熊勇儀。
 額には見間違いようのない赤い角。いつもの杯を片手に酒を飲みながら。
 歩く広告塔のように目立つ風采をしながらも、胡乱な安っぽさは微塵もない。威風堂々とした酔漢姿が様になる。力強い種族、鬼。
 橋の真ん中をまっすぐ歩くようなやつだ。私のように橋の欄干にもたれたりはしない。
 橋の端に寄るのは子供みたいな好奇心で川面を覗きに来るときと、私をからかいに来るときだけ。
 川面に魚を見たときも私を見たときも、目を輝かせて嬉しそうにして。その無邪気さが妬ましい。
 こいつには川の鯉も私も同様に見えているのかしら。
 そんなことを言えば、きっとこんな風に答えるのだ。
「ああ、鯉も恋しいお前もおんなじさ。どちらも水際できらきらしていて綺麗だろう?」
 そうやって強引にやって来て、こちらの返事も待たずに私を掠って。
 憎まれずに横紙破りを行ってしまう奔放さ。どこまでもが妬ましい。
「なんだい。くれるのはやぶ睨みだけで、甘い声一つもくれないのかい。つれないねぇ」
「昼間っから酒をかっくらっていいご気分のあんたに、これ以上なにをくれてやれっていうの」
「どうした? ご機嫌斜めじゃないか。こんないい天気に橋のたもとに立ちっぱなしじゃあ喉も渇くだろう。お前も飲むかい」
 すぐこれだ。何かに付けて酒を勧めて相手を酔っぱらわせて呵々と笑う。
 鬼に共通した悪癖だけれども、勇儀のは特にひどい。祭りの大将が勧める酒を断れるやつなんて滅多にいない。
 勇儀が酒と回りを飲んで、回りは勇儀と酒に飲まれて。
 こいつのいるところはどこだって、おめでたくも妬ましい陽気な酒宴が始まってしまう。
 私がイライラと橋に立ち続けているのも、みんなこいつのせい。
 ……勇儀がこんなにも人を惹きつける、人さらいの鬼でなければ悩むこともなくて。
 追い払うなり立ち去るなりできるのに、私は立ち続けるだけで。
 ずっと勇儀のことを考えて、立ち続けるだけで。
「結構よ。底なし樽の鬼とは違う。立ち飲みするほどに酒に乾いていない」
 あいにく私は勇儀の部下ではないし、脳天気な祭好きでもない。
 幸せな他人を見たら嫉妬する気性の、拗くれた根性曲がりの橋姫だ。
 お生憎様。いつでも楽しそうなあんたのおもちゃになってやるつもりなんてまったくない。
「そうかい、じゃあそこらで茶でも飲もうじゃないか」
 なのに、あいつはいつものように私の肩に手を回す。お得意の人さらい。
「まだ行くなんて言ってない」
「和菓子屋では美味しい桜菓子が始まったそうだよ。茶店でも食べられるだろう。可愛い女の子には花の菓子を食べさせなきゃいけないって昔から言うじゃないか」
「そんな話聞いたことない……強引に押さないで。私は自分で歩けるわ。歩きにくいでしょう」
 こうなってしまったらもう、逆らっても仕方がなくて。
 私に出来る抵抗はとびきりの高級茶店に引き入れて、勇儀の財布を軽くしてやるぐらい。
 他人の不幸は蜜の味が私の本性だけれども、たまには蜜そのものをご馳走になってもいいわよね。
 あたり構わず勝手に私の恋人を騙るぐらいなんだからそれぐらいは――ああ、でも鬼は嘘を言わない。
 じゃあ騙りじゃない? でも私が認めなければそれは嘘にしかならなくて。でも鬼は嘘を言わない。
 これはどういうことになるのかしら。
 ぐるぐると頭を悩ます私をよそに、勇儀はのんきに辺りの光景を楽しんでいる。
「ああ、いい季節になった。すっかり春だねえ。水面に映る桜が見事じゃあないか。橋姫、これをずっと見ていたのかい。桜とお前がゆらゆら、きらきらしていて、綺麗どころの二乗だ」
「……馬鹿じゃないの」
 先ほど勇儀が言いそうだと思っていた台詞とよく似た言い回しだった。
 相手を理解していると言うことは、相手に染められているということで。
 私が勇儀の言動を読めるようになってしまったことすら妬ましくて仕方ない。
 


 だけれども茶店で聞いた勇儀の話は全く想像の範囲外で。いわゆる斜め右上を飛んでいく内容だった。
 私は勇儀を置いて茶店から飛び出すと、全力疾走で地上に飛んでいったのだった。



「……どなた?」
 扉を開けた金髪の少女は私を見て首を傾げた。
 聞き覚えのある声。地上の魔法使いが連れていた人形から聞こえてきたもの。
 あの時と同じ精巧な人形を、少女は肩の上に浮かせている。間違いないわ。
「黒白帽子の魔法使いの人形遣いね。私は水橋パルスィ。地下世界の縦穴番人。橋守をしているわ」
「その『黒白帽子の魔法使いの人形遣い』という呼ばれ方は受け入れがたいけれど。アリス・マーガトロイドよ。直接お会いするのは初めてになるわね。上がってお茶でもどう」
「随分と愛想がいいのね。きっと誰にでも好かれるのでしょう。妬ましい」
「……地底では変わったご挨拶が流行っているのね。橋姫の性質は知っているから無駄な喧嘩は売らないわ。自慢じゃないけれど私は人好かれされる方じゃないわよ。お茶に誘ったのは型どおりの礼儀作法と、地底から駆けつけるなんてただごとじゃない話の予感がしたから」
 通された居間では、二体の人形が追いかけっこをしていた。
 一体は人形遣いが肩に浮かせている人形とよく似たもの。もう一体は人の幼子ぐらいの大きさ。
 両手で頭を抱えて空を飛ぶ小さな人形の後を、もう一体が箒を振り上げて「だじぇ、だじぇ」と謎の呪文を唱えながらよちよちと追いかけている。
 ……箒の方、操り人形にしては行動パターンがめちゃくちゃのような。
「マリア。上海をいじめない」
 人形遣いが手を宙に上げて動かすと、箒の子がふわっと浮いて人形遣いの胸に飛び込んできた。
「……それよ」
「なによ」
 箒を床に落とし、人形遣いの胸にしがみついて「ぱわだじぇ」と鳴く子を指す。
「それ、あなたと黒白帽子の子でしょう。妬ましいわ」
「ああ、旧都の鬼の子が産みたいってお話だったの?」
「なっ……そんなわけないでしょうっ」
 胸に幼子を抱えた人形遣いに訝しげに見られて激昂した。
「だって貴女、妬ましいって」
「あんたの幸せが妬ましいだけ。だいたい、どうして私が勇儀の子を産みたいなんて思わなきゃいけないの」
「ああ、もう。どうしてうちの客はこう変なのと偏屈ばかりなのかしら……」
 こめかみを抑える人形遣いのしかめっ面に、私と似た苦労を重ねてきた雰囲気を感じてしまう。
 間違った。愛する相手と結ばれて子を成した幸せな女は妬みこそすれ、いちゃもんをつける相手じゃなかったわ。
「私があなたに話したいのは、そのことだけれども、その逆」
 星熊勇儀が黒白魔法使いから子作りの薬を譲ってもらうというとんでもない話について。
「……そういうわけで、私にはまったく子を産む意志なんてない。勇儀の手に妙な薬が渡るのをあなたに阻止して欲しいのよ」
「そんな話は魔理沙に直接いいなさいな」
「捕まらないんだもの。ここだって黒白の自宅なのに今はあなたしか居ない。旦那の責任はあなたにとっても連帯責任でしょ。きちんと止めさせて」
「……そうは言うけれど、貴女」
 人形遣いは冷たい青の目で私を見て。
「逆の立場だったら。貴女だったら、地底の鬼の交友関係や行動を止めたり出来る?」
「……っ」
 痛いところをつかれた。
 私に勇儀を止められはしない。だから先回りして止めようと地上にやってきたのだ。
 勇儀は力強くて自由闊達。どこにでも行って、誰とでも話して。誰からも疎まれるような嫉妬深い橋姫なんかにも言い寄って。袖にされても何度も、何度も。
 もっと簡単に、もっと優しく勇儀を受け入れてくれる相手はいくらでもいるに決まっているのに。
「……ここまで来て立ち話も馬鹿らしいわね。座ってお茶でも飲みましょう」
 人形遣いに促されて、卓についた。
 子供をあやしながら人形を操って、私と自分の紅茶を淹れる。
 お茶菓子にと、固焼き菓子にケーキ類、パイにサンドイッチらの乗った皿が次から次へと運ばれてくる。
 ……人好かれしないなんて、絶対に嘘。妬ましい。
 これだけのご馳走を並べられる甲斐性があって、話し相手の落ち込んだ空気を読める気遣いがある。
 好かれないはずが無いじゃない。
「私が出来るアドバイスはね」
 人形遣いは子供にビスケットを食べさせながら話しかけてきた。
「魔理沙の薬を使ったってその……子供が出来るようなことをしなければ出来ないのよ。だから貴女がそういうのを拒んでしなければ……」
「……あなた、さっき、自分は黒白魔法使いの行動を止められないって意味合いのことを言ったわよね」
「……ごめんなさい」
 ……気まずいわ。 
 嫉妬深くて捻くれた他には類のない女だって自覚していたから、まさか初対面の相手とここまで通じ合えてしまうとは思わなかった。
 腹の内をぶっちゃけられるほどの仲ではないのに、互いの立場を察し合えるというのは本当に気まずい。
 私が白黒魔法使いと人形遣いの関係を推察できるのと同程度に、人形遣いも私と勇儀とを量り知ることが出来ているのでしょう。
 ……いっそう、弾幕でもぶつけ合って気恥ずかしさをうやむやにしたいって、人形遣いも思っているんでしょうね。
「帰ったぜ−」
 玄関の扉が開いて、また聞き覚えのある声。
「お、珍しい顔が居るな。そうそう、さっきお前んとこの鬼に約束の物を渡してきたからな」
 黒白魔法使いはずかずかと私の元にやってくると、妬ましいぐらいにいい笑顔を浮かべて親指を立てる。
「お前もがっちり頑張れよ」
 人形遣いを見ると、子供を抱きしめて防御結界を張って、全てを諦めたような遠い目で微笑みを浮かべていた。
 ありがとう。私達、再来世ぐらいには親友になれるかもしれない。
 私は叫んだ。

「花咲爺『華やかなる仁者への嫉妬』っ!」



 すっかり暗くなってから地底に帰ると、橋の前に勇儀が腕組みをして立っていた。
 月灯りに照らされて背の高い影を伸ばして。私の姿を見つけると小走りに寄ってくる。
「パルスィ。いきなり茶店から飛び出るから心配したじゃないか。どこに行っていたんだい」
「地上よ。あんたはここで黒白魔法使いと待ち合わせしてたって?」
「何を言ってるんだい。ここに立っていたのはお前を待っていたから決まっているじゃないか。どこに行ったとしてもお前はここに戻ってくるだろう。うん? しかし魔理沙と約束をしていたことをよく知っているねえ。賑々しい奴だからね、あいつも。地底まで話のネタになる」
 私を見て安心したのかそれ以上は問いたださずに。笑顔になって肩を抱いてきた。
 そのまま二人で旧都に向かって歩き出す。
 時間も時間だし、勇儀のごひいきの料亭で夕餉を食べることになるのだろう。泊まるかも知れない。
 そうしたら勇儀は黒白魔法使いの怪しい薬を使いたがるかしら。
 ……子供が欲しいの?
 勇儀とは逢瀬を重ねる仲。待ち合わせて、甘い言葉を囁かれて夜半に重なって朝に別つ。
 そんな一夜を何度続けても、一つ屋根の下には続かなくて。
 私は橋に立つ女。勇儀は旧都の粋人。夜を通して川面に映る灯りを眺めて。酒と宴に酔いしれて。
 どちらも子を守る屋根など持ち合わせてはいないのに。子を成すなんてお話しは現実味が薄すぎる。

 勇儀からそっと目を背ければ、通りの賑わいが目に写った。
 桜吹雪に祭提灯。薄紅の風が火灯りに透いて――幻。
 この夜祭りはいつまで続くのだろう。そんなことを考えていた。



「お前さん、今日はぼんやりしてるねえ」
「……なんだか疲れた」
「湯あたりかい? まあ、あの勢いで地上に駆け上がれば疲れるだろう。ゆっくりくつろぐといいさ」
 風呂から帰ってきてぼんやり座っていたら、勇儀に心配された。
 私より先に部屋に戻っていた勇儀は、窓辺にもたれて酒を飲んでいる。
 料亭で通されたのは最上階の五階の部屋で。食事を終えると仲居が膳を下げに来た。
 天井から下げていた蝋燭燭台を取り外すと、代わりに明かりの弱い行灯と酒、酒肴を置いていった。
 部屋を暗くして、星や月明かりで酒を楽しむ趣向があるみたいだ。泊まることもできるのだから暗がりには別の使い方もあるのだろう。
 襖絵や調度品を目利きするまでもない。店構えも店員の立ち振る舞いもご立派なお店。
 勇儀に連れられる店はだいたいどれもこんな感じで。四天王はお大尽なのだと思い知らされる。
 家も持たずにこんな料亭や旅籠を夜ごとに渡り歩いているのだ。
「一斗酒を空ければすぐにご機嫌になれる鬼には悩みも疲れはないでしょうよ。肩でも揉んでもらおうかしら」
「んん? これも珍しい。泣き言に甘えごととは嬉しいね」
 浴衣姿のその胸に横抱きされるようにもたれると、勇儀は相好を崩して私の体に触れてきた。
 ……そこ、肩じゃない。
 襟から手を差し入れて肩が揉めるなんてどんな体つきの妖怪よ。
 気持ちがいいので文句を言わずに触らせてやるけれど。
 お腹や下胸なんかをさするだけなので勇儀は戯れのつもりなのだろう。
 心を許した相手に触られると、くつろぐし落ち着いた。
「……外から見られるかしら」
 横を向けば町を見下ろせる。提灯や屋台、御輿の蝋燭などが町通りを浮かび上がらせていた。
 灯りを見れば町の規模がわかる。
 夜になっても人が多いこの大きな旧都を、勇儀はいつもこうやって見下ろしているのだろうか。
 ……見下ろしているといっても、旧都の庶民をバカにしているとかお高くとまっているとかじゃなくて。
 そういったことに敏感な私の下卑た嫉妬心すら越えたところに勇儀は座っているような気がして。
 こんなに近くにいるのに。今だって私を抱きしめてくれているのに。
 私は勇儀を時々、ものすごく遠く感じる。
 追いかけないとと気が急いて。絶対追いつけないと諦めて。そんな繰り返しに疲れてしまって。
 ため息をつくと勇儀は私の顔を肩越しにのぞき込んだ
「んー、そんなに気になるかい? 大丈夫、この高さなら見えないさ。祭りの最中に行灯だけの薄暗い部屋なんかを見上げる阿呆もいないだろう。気になるってんならこうすればいい」
 勇儀は私を抱いたまま仰向けに寝転んだ。
 月明かりも差し込まない窓の下は薄暗い部屋の中でもいっそう暗い。
 勇儀が上機嫌に笑う。
「これでお前を独り占めだ」
 私を抱きながら一人勝手に幸せになって。その単純さ、図々しさ、配慮の無さ。
 全てが身を焦がすほどにたまらなく妬ましい。
「……本当に独り占めだと思っているのだったら相当おめでたいわ」
「なんだいなんだい、可愛い駄々をこねるねぇ」
「足りないわ。全然。生ぬるいのよ」
 勇儀は暖かいんだか冷たいんだかわからない、今の季節の風のようだった。
 花を咲かせて、散らせて。綺麗で目を惹いて。急な突風で目を覚まさせられて。
 夢を見せられては現実を見せつけられる。
 ……こんな思いはもう沢山。
 私は体を反転させると、勇儀の上に覆い被さった。
 勇儀の夕焼け色の赤い瞳が夜影に染まって赤黒く。まるで乾いた血痕で。
 私の傷が勇儀の中でかさぶたになってしまったんだろうか。そんなことを思って。
 かさぶたを引っぺがしてやりたくて、勇儀の目の脇に親指を当てる。
 爪をずらせばすぐに勇儀から光を消せる状態で。だけど勇儀は困惑気味にじっと私を見上げるだけで。
 ゆらゆらとする水面の影越しに向かい合っているようなもどかしさに堰が切れる。
「何が独り占めよ。私は全然占められてなんかない。足りないわ。鬼でしょう。余計なことを考えないですむぐらいに占領してよ。手を抜いてるの? 私なんか気が向いたときに橋から拾ってやればいいと思ってるんでしょう」
「……驚いた。パルスィ。お前、そんなことを考えていたのかい」
「ええそうよあんたは考えもしなかったでしょうよ。妬ましい。妬ましい妬ましい妬ましいっ! 自信に溢れていて正直で後ろ暗いことなんて何もないあんたに、後ろ暗さしか見てこなかった緑の目の気持ちなんてわからないでしょう。いつもね、痛いのよ。あんたを思うと胸が掻きむしられるぐらい痛い。こんな風にね。痛いわ。痛いのよっ!」
 顔に爪でがりがりと削ってやっても勇儀は痛がる素振りをみせない。
 逆に手を伸ばしてきて。私の顔を撫でて。目元の涙を拭って。
 頬の爪痕に血を滲ませて、惚れ惚れするようないい笑顔を浮かべる、
 ……口惜しい。妬ましい。
 こんなひどい奴。みっともなく泣き叫んで爪を立ててすがりついて、愛するしかないなんて。
「……お前は縛られるのを嫌がると思ったんだよ。だって、私がくっつくとすぐに怒るじゃないか」
「真っ昼間の人前で。あんたにも守るべき威厳という物があるでしょう。大将には一番必要な物なのに愛されてるから気づきもしない。愚鈍な鬼」
「私の立場なんかまで気を廻してくれるんだね。お前のそういうところが愛おしいよ」
「馬鹿なあんたを罵ってるのっ!」
「ああ、うん。とりあえずわかった。本当に私が馬鹿だった。もっともっとお前を独占して良かったんだね。じゃあ結婚しよう」
「……は?」
 爪で引っ掻くのを止めた。
 今こいつ、反省に紛れてとんでも無いことを言わなかった? え? け……血痕? 
 とっさに使い慣れた単語を思い浮かべる。痴情のもつれの刃傷沙汰。今はそんな話をしていたっけ?
「なんて顔をしてるんだい。結婚さ。祝言を挙げて一緒に住もう。どこかに家を造らないといけないね。新居はどこがいい?」
 穏やかに繰り返されて正気に戻った。
 結婚。祝言。新居。……はぁ!?
「何を馬鹿なことを言ってるのよっ! できるわけないでしょうっ!」
「んーん? どうしてそんな風に思うんだい?」
「私、橋姫よ? 嫉妬狂いで有名な世間の嫌われ者よ? ……あんたとは格も立場も違うでしょうっ!」
「世間なんて輩がお前を嫌ってるのかは知らないけれど、私が好いているんだからなんの問題もないじゃないか」
「なに言ってるの大問題でしょっ! ……あんたの仲間にも平気で妬ましい妬ましい言うわよ。 あんたほど物好きな馬鹿ばっかりじゃないでしょ」
「うん? 私の回りにいるやつらはみんな私みたいなもんだよ。きっとパルスィを好きになるな。ああ、可愛いパルスィをやつらに掠われないかどうかは心配だけど、なあに、しっかり抱いて渡しはしないさ」
「そんなことを言ってるんじゃないっ!」
 声を荒げると、柳に風でゆらりと笑う。
「何を言ったって無駄だよパルスィ。知っているだろう。私は鬼だからね。花嫁を掠うのは伝統行事さ。うーん。さすがに同じのを二度掠うのは初めてだけれど、いいもんは何度掠っても悪くない」
 ……なんてこと。勇儀は本気だ。
 あまりの突拍子の無さに突き跳ねていた現実が徐々に胸に染みてくる。
 結婚という言葉はまだ全く実感はわかないけれど。でも。
 勇儀に独占させられて。勇儀を独占して。そういった約束を交わそうとしている。
「それでどうだい? 私に貰われてくれるのかい?」
 澄み切った爽やかな表情を見ているのも気恥ずかしくなって、勇儀の胸に顔を埋めた。
「……いえ」
「うん?」
「……あたらしい、いえ。……橋の近くがいい。旧都からは離れるけど」
「うんうん。川の近くは夏涼しいからね。ただ、湿気が多くて布団が乾きにくいとか聞くがなぁ」
「……宿無し風来坊の遊び人の癖に、所帯じみたことも知ってるんだ」
「集会所の布団干しぐらいはやってるさ。掃除洗濯料理だってできる。お前が疲れて帰ってきたときには三つ指をついて迎えてやろう」
「……ぷっ」
 割烹着を着て玄関先に小さく座る勇儀を想像して笑う。
 勇儀は黙って澄ましていれば、華があって凛々しい綺麗な女性だ。
 でも勇儀が黙っていることも澄ましていることもない。付け加えれば、杯を放すことも。
 杯と一升瓶を抱えた喧嘩好き妻のいる家なんて、崩壊しているとしか思えない。
 人を妬み殺すぐらいに嫉妬深い妻だって論外だ。
 だから勇儀が家を持つなんて現実的には考えられなくて。私が誰かと一緒に住むなんて……本当に。
「やあ、やっと笑った。今日一番の可愛い顔がやっと見られた」
 勇儀は私の頬や唇に口付けた。
 舌で涙を舐め取るようされたので、私が付けた傷を舐め返す。
 互いの顔を舐めて、唇を食べ合って。顔を擦りつけ合う。
「……なんだか猫みたいなことしてる」
「そうだ。そういえば」
 勇儀はとつぜん起き上がると、普段着の下げてある衣紋掛けの方に歩いていった。
「魔理沙から面白い薬を貰ってね」
 ……すっかり忘れていた。
 ああ、でもこれから一つ屋根の下で暮らすことになるのなら子供を産んで育てることだって。
 でももし今晩そういうことで子供が出来てしまったら順番が変わってしまう。
 ただでさえ勇儀と一緒になれば、あたりからきつい反発を喰らうに決まっている。
 容赦ない悪口に油を引いて滑らかにしてやる必要はないじゃない。
 力の勇儀が神業で橋の女を孕ませて、渋々身請けする羽目になった……とか。
 そんな不名誉な噂を私の勇儀に着せるわけにはいかない。
 慌てなくたっていい。家を建てて共に暮らして。生活が落ち着いたその時で。
「ねえ勇儀、私達にはまだ早……」
「なんでも飲むと猫になれるって薬なんだって。面白いだろう」
「……ねこ?」
 振り返る勇儀が紙に包まれた数包の薬を振って見せた。
「ああ、猫さ。昼間に話しただろう。猫作りの秘薬の話」
「ねこ……づくり」
 えっと……聞き間違いってオチ? 
 それはないでしょう。そんなの。だって。勇儀以上の大馬鹿じゃない。
 そんなことばっかり考えていたから間違えた……とか。 
 ……死にたい。通りすがりの勇儀の取り巻きに妬まれ殺されたい。
 茫然自失する私の前で、勇儀はぺらぺらとしゃべり続ける。
「お前を撫でていると、ときどき猫を撫でているような気がしてねえ。パルスィは猫になってもきっと可愛いんだぞと自慢したら、魔理沙の奴、薬で奥さんを猫にしたって話をしてね。そいつは素敵だと譲って貰ったんだ。持ち歩きやすいように水薬を錠剤に変えてくれたりと色々と私らに合うように調合し直してくれてね。いやあ、あいつは気が利いてサッパリしたいい奴だ」
「……あんた深刻な馬鹿でしょう」
 大丈夫だ、私。まだ勇儀は越えてない。
 そして地上の魔法使いも深刻だ。
 まともそうな顔をしていたあの人形遣いも。いったい何に付き合ってやっているの。
「そんな怪しい薬飲まない」
「なんだい、ノリが悪いねえ。じゃあまず私が試しに飲んでみようかい。おや? なんだか袋にオスとメスって書いてあるけれど、私は女だからメスの方でいいのかな」
 いくらあの魔法使いが深刻な病人でも、私と勇儀に男性用の薬を渡すことはないだろう。
 だとすれば、オスとメスというのは猫になった後の性別のことだとすぐに察しがつく。
 ……って。オスって。ひょっとしてそれ。子作りの薬も兼ねていたりするの? 
 人形遣いの家にいたあの小さい子供。まさか……猫から?
 なにそれ。重症の変態家族じゃない。妬まし……くな……い。
 次々に明らかになる衝撃の事実に頭を揺さぶられている間に、勇儀は錠剤を口に入れた。
 酒で一気に飲み下す。
「……んー。なんか熱くなってきた。ん……んん?」
「ちょっと大丈夫なの? 薬を盛られるってのは、あんた達の典型的やられ方でしょう」
「ん、地上で暮らしている鬼で実験済みだっていうから問題はないはずなんだけど……んーん、熱いねえ」
 怖い。地上怖い。
 地上の鬼ってたしか勇儀の仲間の四天王でしょう。そんなのを実験台にするなんてどんだけ豪放磊落なの。
 怖い。人間怖い。変態怖い。
「んんん……なんだかムズムズ……んな?んにゃにゃにゃにゃ?」
 変な声を出し始めて頭を掻きだした勇儀に、どうなることかとはらはら見守っていたら。

 ――勇儀の頭からひょいっと猫耳が飛びだした。

「な!?」
「にゃう?……にゃ?にゃにゃ?……にゃーっ?」
 ふざけた猫真似声じゃない。本物の獣の鳴き声が出ていることに勇儀自身も驚いているようで。
 私を見て、両手を前に並べて出す。
 ……猫の手だった。
 正確に言うならば猫の手風。
 肘から先が手袋を付けたみたいに虎縞の毛皮に変質していた。
 手のひらは完全に猫の物。短い指に尖った爪。ぷにぷにの肉球突き。
「んにゃう……?」
 他にもまだ違和感があるらしく、もぞもぞと腰を振っている。お尻の方に手を回してなにかごそごそと……
「んー……にゃあっ!」
 浴衣の下から、立派なしましま尻尾が飛びだしてきた。
 勇儀はなにやら楽しくなってきたようで、にゃふにゃふ笑いながら肉球を叩き合わせてぽてぽて拍手をしている。
「にゃにゃにゃにゃにゃにゃーん! ふっしっ! にゃーにゃーなーん?」
「全然わからない。ねえまさかそれしか喋れないの?」
「にゃーん」
「……カンベンして」
 腰に手を当てて頷く勇儀に、頭に手をやって崩れる私。
 私、猫に嫁ぐの? それは本当に想像もしてなかった。
 それに今の勇儀は猫とも言えない。
 基本形が人型なのはともかくとして。猫っていうより虎っぽいし。……額に角生えているし。
 虎風一角獣鬼? そんなのがもし外の世界にいたとしたなら、それは確かに秒速で幻想郷入りするわ。
 誰もついて行けない。もちろん私だって無理。
 疲れ果ててぐったりと俯いていると、ちょいと肩を突かれて。
「にゃう」
 薬の包み紙に爪で書いたメモを見せられた。

 ――ひとばんで もどる

「……今日一番の朗報。求婚されたことよりもずっと嬉しいわ」
「なうーな」
 新しく薬紙を開いて、その紙にまた爪で書き付ける。
 紙と一緒に錠剤を一粒手に乗せて、私の方へ。

 ――おまえも ねこ なれ はなし できる

 むき出しの錠剤を掴むと力一杯窓の外に放り投げた。
「……にゃーん」
「寝よ」
 いつになく切ない声を上げる勇儀に背を向けて、布団の敷かれた部屋へと逃げ立った。
 後ろから勇儀がついてくる。足音を立てずに。そんなところも猫なんだ。どうでもいいけど。
 布団に潜り込むと、後ろからするりと勇儀も入ってきた。
 獣の手で後ろから私を抱きしめて。
「……この手でどうする気。こんなの肉を裂く手でしょうよ」
 毛皮を摘みながら振り返ると、満面の笑みを浮かべた勇儀が私の胸にすり寄ってきた。
 猫がお気に入りの家具に身を擦りつけて匂いをつけるように。体をくねらせて頭や腰を押しつけてくる。
「んぁー。んにゃぁー」
 間近で勇儀を見てどきりとした。
 頬を赤らめて。目を潤ませて。……扇情的な女の仕草がそこにある。
 情事で子供のように甘えてくることは珍しくもないけれど。こういった表情を見せたことはない。
 私から愛するときだって、素直に快楽を受けて悦ぶ快活さを感じさせたのに。
 なんだろう、この顔はおかしい。考えて、気がつく。
 ……媚びだ。
 格子女郎が客を惹くように目つき素振りでこちらを誘っている。
 獣の型に貶められたのは、体だけではなく心まで。
 気高い鬼からもっともかけ離れた行動を取らせるぐらいに、今の勇儀は淫らに堕ちていた。
 私が愛したのは鬼の勇儀。誇り高く力強い種族。
 だから勇儀を貶めるようなことをしてはいけない。勇儀には常に爽やかな風をまとっていて欲しい。
 ……そう思っていた。ずっと。『今までは』。
「なーん」
「何がしたいの」
 問いただすと、ぎゅっと結んだ口を口に押しつけて来た。
 閉じたままの口で私の顔中にキスをする。
 舐めてこないのは、たぶん舌が猫化しているから。
 獣の舌で愛撫をされたら私の肌は破けてしまうだろうから。
「ちょっと口空けてみて」
「んにゃー」
 確認すると、やっぱり。歯は先が尖った牙に。舌はざらついたヤスリに。
 だけど口の構造が変わっていたって、私を傷つけまいとする心は変わってなくて。
 ……やっぱり、勇儀だ。
 尻尾を振って媚びを売るおかしな大虎になっていたって、どうしようもないぐらいに愛おしい。
 気高い鬼ではなく、星熊勇儀を愛していたんだと気がつかされる。
 立場や身分の違いに悩む必要なんて最初っからなかった――だって、星熊勇儀を愛したのだから。
「……あんたも馬鹿だけど、私も大概だ」
 今さらに知った自分の心にあきれ果てる。
 求婚されて受けてから、相手を愛していたのだと知るなんて。
 馬鹿な勇儀に阿呆な私。
 ……割れ鍋に綴じ蓋って、このことなのかもしれない。
「んなー、んなー」
 大きななりをして小動物のように身を寄せてくる勇儀の頭を撫でると気持ちよさそうに喉を鳴らした。
 ……鳴るんだ。どういう構造になっているんだろう。
 興味がわいてきた。喉に手を当ててしっかりとさすってやる。
「……ゴロゴロゴロ」
 体が大きいから音も大きいかと思ったけれど、普通の猫とあまり変わらない。
 次は、ぴこぴこと良く動く猫耳に触れてみた。
「んにゃっん!」
 人差し指と親指で摘み上げたら飛び跳ねた。
 掛け布団をはね除けて、尻尾を立ててブンブン振っている。
「痛かった?」
「にゅー、んなー」
 涙を浮かべながらも、耳を私に向けるように頭を下げて。
「……もっと触って欲しい、ってこと?」
「にゃん」
 肯定の色を含む鳴き声に撫でてやる。
「んにゅにゅ……んなー……」
 声と顔に艶がある。どうやら性感帯みたい。
 普段は耳が弱いというわけでもないのに、猫になると変わってしまうのだろうか。
 ぺちぺちと私の腿を叩く尻尾を掴んでやると、耳よりも激しい反応を見せた。
 こっちも、か。
 太くてたくましい尻尾をしごいてやりながら、和毛の生えた耳の中を指でさすってやる。
 勇儀はだらしなく口を開いて鳴いた。
「耳と尻尾が気持ちいいんだ」
「……なぁー……うにゅっ、んあー……」
「そう」
 獣になっても変わらずに勇儀は私を求めている。
 私が獣の勇儀を愛するように、勇儀も。どんな姿になっても。
 勇儀は私を愛してくれる。
「ねえ、勇儀……しようか」
 布団から起き上がって、浴衣を脱いだ。
「……高い宿なんでしょう。眠るだけにはもったいない」
 余計な口も挟んでしまう。
 だけどそんな私の言葉にだって、きっと勇儀は可愛いと感じてくれるに違いない。
 愛されているから。愛しているから。
 先に全裸になると、勇儀の浴衣に手をかけた。
 猫手の勇儀はされるがままで。
 さらしを外すと、形の良い大きな胸が露わになった。胸の先端が充血して尖っている。
「……猫以外の部分でも、感じる?」
「にゃっ!」
 桜色の箇所を指で弾いてやると勇儀は身をよじらせた。
 両手で胸を隠して、にゅーにゅーと不平を訴えるように上目遣いに鳴く。
「……感じるのね」
 手を解いてやって、勇儀の乳首に吸い付いた。
 びくりと震えて胸を突き出すように体を反らせたので、両手を背中に回して反ったままの形を作ってやる。
 舌も歯も使わずに、ただゆっくりと勇儀の胸を吸い続けた。
 頭の上では猫がにゃあにゃあ鳴いている。
 重い尻尾が布団を乱暴に叩いている。
 ……うるさい。
 胸を吸いながら片手の手探りで尻尾を握ってやった。
 尻尾を手のひらで包み込んで擦る。
 往復運動の最初と最後、根本と先端の所で親指を使って尻尾の毛を逆立てるようにぐしゃぐしゃしてやると、手から逃げ出そうとする尻尾の力がぎゅんと増した。
 後ろに逃げようとするので、そのまま前に押し倒す。胸に口づけをしたまま布団の上に。猫が鳴いている。鳴いている。
 ……ああ、うるさい。
 乳首から口を外して顔を上げると、興奮と悦楽を獣の体に押し込まれてぽろぽろと涙を流している勇儀がいた。
「ふにゃー……んあー……なーう」 
「……あなたを全部愛しているけれど、やっぱり猫のあなたは嫌。何を言ってるのかわからない。ねえ、ちゃんと私の名前を呼んでるの?……他の女の名前なんて呼んでいないでしょうねえ。そんなのは許さない。私だけを見て。私だけを呼んで」
 返ってくるのは小さな猫の鳴き声。
 もっと声が良く聞こえるようにと、勇儀に顔を近づける。
 手のひらを勇儀の秘部にあてがうと、熱い液体が手のひらを濡らした。
 わずかな動きで手が滑る。
 私が決めれば、もういつでもその中に入れる。
「ねえ。ねえ。私を呼んでよ」
 勇儀の柔らかく湿った箇所を撫でさすりながら、猫のように顔を舐めた。
 涙で濡れている頬。筋の浮いた首。唾液を弾くふわふわの毛が生えた猫の耳。
 猫が鳴く。私の背中を抱きしめて。愛撫にわななきながら。声を耳元に届かせようと必死に首を伸ばして。
 もう獣の遠吠えに近い猫の悲鳴は、どれも紛れもない私の名前。
「……ぁあっ」
 それだけで打ち震えるほどの歓喜に焼かれた。
 手を動かして勇儀の中に侵入した。
 抱きながら名前を呼ぶ。獣の声で勇儀を呼び返す。
 勇儀は熱い坩堝みたいで。差し込んだ手から全身を溶かされるようで。
 抱き合って体を擦りつけ合う。どちらがどれほどの愛撫を加えているのかもわからない。
 目の前に溶けそうな勇儀。どこか遠くに溶けきっている私。
 互いの境もないほどに崩れた中で牙だけが残る。がちがちと咬み合う硬い音がする。
 それも最後には砕け散った。何もかもが一つのどろどろになる。
 ――だから達したのも一緒のはず。



 鳥の鳴き声にふと目を覚まして。体の芯に響く怠さに負けて、また目を閉じる。
 目は閉じられても五感を閉じることは出来ない。
 朝の町を行く物売りの声。朝餉の支度を始める宿の気配。すぐ脇から聞こえる穏やかな寝息が安眠に潜り込もうとする私の邪魔をする。
 ……寝息?
 もう一度、目を空けて隣を見ると、触れあうほどの距離に勇儀の顔があって驚いた。
 いつもは腕枕をされて眠るから顔の位置はずれるし、起きるのも勇儀の方が早い。
 酔っぱらっての寝顔は時折見たけれど、情交の後の寝顔は初めて見る。
 なんというか。普通の勇儀だった。
 猫の耳は消えて。いつも幸せそうな、いつまでも見ていたい優しい顔。
 けれども、角がすぐ目の前にあるこのままの体勢でいるのは危険だ。
 勇儀が私に腕枕をして寝るのも、睡眠中の角接触・貫通事故を避けるためという身も蓋もない理由がある。
「……しょっと」
 いつもの逆をしてやった。私が勇儀に腕枕をする。
 枕にした腕と反対側の手で角を押さえてやって、安定した姿勢を作り上げる。
 そこまでやっても勇儀はちっとも目を覚まさないで爆睡中だ。
 ……安心して寝てもらえてると考えれば嬉しいけれど。
 勇儀に抱かれて眠る時、私もこんな顔をして寝ているのだろうか。
 どんな顔をしているのか。勇儀が起きたら訪ねてみよう。
 普段とは逆転した位置関係で目覚めたこいつが寝起き一番に、どんな甘ったるい戯れ言を吐けるのかは想像がつかなくて。
 ちょっと言わせてみたかった。
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